樹木葬と散骨には違いがあるのか

かつては石組みの墓地霊園による埋葬しか選択肢がなかった納骨方法ですが、宗教観や死生観が多様化し生前に自然葬を望む方が増えてきました。
自然葬の中でとりわけ人気が高いのが樹木葬海や山への散骨です。
どちらも自然に帰するという点とリーズナブルであることその後の管理がほぼ不要であるなどの共通点が多く、混同されがちです。
実際、散骨めいた樹木葬もないわけではありません。
しかしながら、それぞれに明確な特徴があることも確かで、抱えているトラブルやリスクにも違いがあるということを明記しておきます。

 

樹木葬の始まりと散骨との混同

最初に樹木葬を始めたのは岩手県一関市祥雲寺の千坂げんぽう住職です。
1999年のこと、当時樹木葬に対する認知度は低かったのですが、墓地霊園の過渡な投資や土地の再生を鑑みた結果の英断でした。
樹木葬の土地は霊園として認知されており、墓石が樹に変わるだけのことで一部の方々に抵抗感を生みはしましたが法的にも問題なく、またたく間に全国に広がりました。
トラブルが発生したのは北海道長沼町でのこと。
樹木葬公園と称した土地への散骨に周辺住民から苦情の声が上がったのです。
このトラブルの原因は住民への周知がなかったこと、そして、樹木葬と散骨を混同させていたことです。
このトラブルによって散骨や樹木葬に対する考え方に若干の変化が見られ、規制する方向へ動き始めたことは否定できません。

 

散骨の問題点

散骨に対するトラブルでもっとも多いのが地域のイメージダウンを恐れる自治体や周辺住民からの苦情です。
逆に有名観光地や風光明媚な場所に散骨されることを望む方が多いのも肯ける話です。
樹木葬や散骨という納骨方法がなかった時代に制定された墓地管理法に自然葬について規制する項目はありません。
節度ある散骨は故人の尊厳のためにも否定されるべきではありませんが、トラブルの元となってしまっては元も子もありませんし、故人にとっても本意ではないことでしょう。
むやみな散骨が死体遺棄として裁かれた事例もあります。
周辺住民とのトラブルを避けるためには海洋散骨が望ましいのですが、それすら熱海の海、新島近海などの観光地名が入っていると風評被害の元として嫌う感があります。
葬送の方法は多様化しましたが、死生観を縛ることはできないためさまざまな考え方があることはやむを得ない部分もあります。

 

樹木葬と散骨の根本的な違い

〇樹木葬人気な理由
樹木葬と散骨のもっとも大きな違いは故人を偲ばせる指標が遺るか遺らないかということです。
自然に還りたいという願いと、豪奢なお墓でなくとも何らかの標を遺しておきたいという願い、伸びゆく樹々の糧となり、美しい花として生まれ変われるならこれ以上素晴らしいことはありません。
樹木葬が大きな人気を博している最大の理由です。

〇散骨が人気の理由
逆に死後は何も遺したくないという方もいます。
そのような方々の多くが望まれるのが散骨という方法です。

〇デメリット
標なき散骨は写真や記憶でしか故人を偲ぶことができないという遺族や遺された方々へのデメリットがあります。
その反面、故人にとっては、樹木葬が土に還り場所を限定されることに対し、散骨は風に乗り、海流に乗り、自由な旅を続けることのできるメリットがあります。
もちろん、故人の願いがそこにあればこそですが。

 

故人の願いと遺族の想いとのバランス

散骨にせよ、樹木葬にせよ専門的に取り扱っている業者が多数あります。
ただし、あまりに人気が高いことから、営利目的だけの会社もあるので注意が必要です。
どれだけ時代が移り変わり、AIやロボットが活躍することになろうと葬送が厳粛な儀式であることに変わりはありません。
故人の願いを最優先させることが大切ですが、時を経るごとに薄れていく記憶と募る想いとのバランスが崩れていきます。
散骨の後、お墓を建てた方もいますし、初めから分骨される遺族もいます。
故人の生前の願いと遺族の想いをうまく掛け合わせてもっとも適した選択をすることが望まれます。